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僻村塾記録「世界を広げる」 湯川豊氏・辻原登氏   H16.7.10 19:30〜 望岳苑

 湯川 豊氏

 夏目漱石の「三四郎」の冒頭の部分は、小川三四郎が帝国大学入学のため上京する電車の中で同席する二人との話。
 広田先生(中学校の先生のような印象、後に先生とわかる)とも車中で出会う。
 その広田先生の言葉の中に、「東京より広いのは日本、それより広いのは君の頭の中=精神」という言葉がある。明治43年、日露戦争の後に時代に冷や水をぶっかける漱石。国が大きい・強いことはほとんど意味がない。ということを例に出して、精神の広さを新入生(東海大学生)に話した。

 辻原 登氏

 漱石は好きじゃないが「三四郎は好き」。車中の話の部分は好き。
 ドストエフスキーの「カラマゾフの兄弟」の中にも似た事を言っている部分がある。
 ドミートリーがアリョーシャに語る言葉「世界はとてつもなく広い。僕が小さくしてみせる」。
 漱石と同じことを言っている。

 「桃源郷」について触れた小説・詩は多い。
 桃源郷の元になったのは、陶淵明(太元年間380年頃)の「桃下源の記」による。
 晋の太元年間に、洞庭湖の北、武陵の漁師が川を遡り迷う。上流に桃の林・花びらが舞う。
 さらに水源を求めて遡る。岩山の穴、針の如く小さい穴の中の光を尋ねて行く。村が広がり、青い水田、品のよい家、村の人。
 料理のもてなし、合い和す。数日歓待を受けて帰る。口外しない約束。
 蓁始皇帝の時代、戦乱を逃れてここに来る・・・数百年の時代。
 帰り道、印を付けて帰ってくる。口外しないと約束したが、領主に話してしまう。探検隊を何回も出すが見つからず。
 淹留譚(えんりゅうたん)・・・浦島太郎(竜宮城)→時間の壁 迷路→空間的な壁
 日本には遣隋使・遣唐使により伝わる。中国の文学をたくさん読むことから始まった。

 東アジアの風土にぴったり。竹林・稲穂・犬・・・農村の理想的な形
 洞庭湖の緯度・・・常葉樹林帯の地域(インド・アッサム・雲南省・浙江省・福建省・九州・四国・本州 お茶・椎の木
 焼き畑農業 稗・粟・根菜・太郎芋
 稲作・お茶・醤油・納豆・味噌・寿司・漆
 モンスーン地帯に共通する説話 日本・・・羽衣・かぐや姫
 陶淵明が創作したものではない、似たような話がたくさんあり、集大成した。
 中国文明が生まれた時点からすでに物語はあった。
 
 元になるもの・・・戦争を逃れるために一つの村がすっぽり隔絶した場所で暮らすという話がたくさんあった。
 塢(う)・・・土手・山間に囲まれた場所
 文化大革命の時代に浙江省で1980年代から20年近く外部と連絡を絶っていた集落がある
 文学的に昇華されたファンタジー
 日本にはない・・・そこまでしなくても生きていける・狭くてわかってしまう
 落人部落・・・平家の落人伝説の90%は後世のでっちあげ。孤立した村を琵琶法師が歩いたときに脚色した。
 小野小町の伝説も各地にある・・・近江小野郷に生誕終焉の地がある
 小野一族は全国を語り部として遊女(宗教的踊りを踊る人)が歩いた
 お能の卒塔婆小町では100年くらい生きている・・・小町伝説を持ち歩いた遊女が亡くなったものが各地に残って小町伝説と結びついた
 折口信夫・・・日本民俗学の直感的なアイデア説
 木地師(椀・盆・箕・竹細工)部落の黒駒太師を思い出す
 岩手県遠野盆地・・・柳田国夫 「遠野物語」1910年明治33年 佐々木喜善(1886−1933)に遠野に伝わる伝説・生活・習慣を聞いたものをまとめた。「遠い家」・・・山中に豪邸、立派な庭、囲炉裏の火が燃えている、無人→日本的に変化した塢(う)

 「村の名前」 桃源県桃下源村 商社マンが湖南省で畳のい草の輸入にあたる
 不気味な雰囲気の向こう・・・中国の政争

 文人画・南画・・・蕪村 隠遁して桃源郷のような所に住みたい
 日本では理想郷という考え方が定着しない
 黒潮の道を通る・・・アニミズム(全てのものに霊魂が宿る)の世界 
 現実世界VS異界(霊魂が生きている)→たたりがある

 理想郷が過去にある・・・ノスタルジー 宗教は前向き 仏教・・・今よりもyくなる・前を向く
 懐かしさの感覚・・・自然は人間を調整しているような気がしてならない
 キリスト教中心のヨーロッパは何かを創り出して行く(自然を征服)
 植村直己・・・絶対に征服しないで適応する エスキモー・極北のインディアン 12000年の歴史あり
 自然を征服しないから生き延びた←→西洋の冒険家は極北を征服しようとして失敗、エスキモーから学ばない


 今後の予定

 8/28 川上弘美先生 芥川賞 「蛇を踏む」(1996) 他「センセイの鞄」
 8/7  鷹羽狩行先生

 質疑

 賞の選考はどのくらいの作品を読むのか?

 湯川豊氏 候補作を社内選考委員 20人(直木賞) 17人(芥川賞)が1人50冊位を読む
 最終作 10冊
 文藝春秋から刊行された作品が多くならにように公平に読む

 常葉樹林帯の範囲とヨーロッパと中国・日本の文化の違いは?

 辻原 登氏
 常葉樹林帯・・・インド・アッサム・雲南省・浙江省・福建省・九州・四国・本州
 キリスト教があったかなかったかどうかの違い
 財を蓄積して前に進む         進歩を中心に置いていない
 19C近代ヨーロッパ文明完成     日本の気候は穏やか
 自然を管理して残す思想        切り開いて征服して行く考え方はない
                        思想化しないうちに破壊・歯止めがきかない
                        アフリカ・アラスカの原住民は自然を征服しようとしない
  

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