平成17年度第7回僻村塾記録(17.10.22)
「藤沢周平の世界」 湯川豊氏
1997年69歳で没、短命だった。「漆の実のみのるころ」を文藝春秋で連載中に入院し、連載を中断。一時帰宅した時に最後の6枚だけ書いて亡くなる。油が乗り切った所で亡くなった。

1997年2月鶴岡市長富塚さんが文藝春秋社へ見える。記念館を作りたいので協力をお願いしたい。
当時出版局長だったので、相談相手になった。
今年になってようやく具体化し、10回忌までに建てたいということで、設立準備委員会ができ、娘さんの展子さんも入って開始。来年から本格的に作り始める。
11月2日に第1回目の会合が開催される。
「蝉しぐれ」の映画、小説とは違うが傑作を読む機会になればよい。
鶴岡に年1〜2回行く、そのたびに藤沢さんの故郷に行く、縁ができた。
鶴岡市高坂・・・旧東田川郡黄金村に生まれる。
作家として珍しい・・・庄内平野との関わりが強い。藤沢さんほど郷土意識の強い作家はいない。
海坂藩は庄内藩をモデルにして庄内平野に起こったことを書く。どこが魅力か?地形がいい。
南・・・月山 北・・・鳥海山(独立火山・秀麗) 東・・・羽黒山 庄内平野 最上川・赤川が作った沖積地
風景だけでもいい、独立した1つの地形。
金峰山の山裾に黄金村(里山)・・・日本の農村の原風景を感じさせる。
米沢・山形と異なる魅力がある。武家屋敷がそのまま残っている。
様変わりが大きい中で鶴岡は人間の生活の継続性を感じさせる。食べるものが江戸時代から変わらない。
生活様式は変わっていると思うが・・・。
酒井家13.8万石の領地。家康の家臣酒井忠次を祖として忠勝(3代目)が入封し明治維新に至る。
2004年現在も殿様がいる。当代17代忠明18代忠平。
明治維新にほとんどの殿様が東京で生活。
「ビーパル」でインタビューしたが、釣(海釣)・魚・カメラが好き。
釣は江戸時代からの庄内藩の伝統で、鳥指しとともに食糧確保・健康のため侍に奨励していた。
庄内竿は一本竿で途中で曲がっており、大鯛が取り込めるように強い。
先々代の羽左衛門に似た風貌。
時代小説 海坂物にもっとも魅力的なものが結集している(地形・風土性)。
5作目の「暗殺の年輪」・・・海坂藩の1作目
北国小藩7万国 だんだんと小説の中で規模が大きくなって行く。
丸谷才一・向井敏が心配した。実体が合わなくなる。
酒井家13.8万石→実質17万石 酒田港・・・日本海有数の貿易港
天保年間水野忠邦の改革で三方所替えが決定され、酒井家→長岡→川越 農民の直訴で決定の取り消しとなる。
地形的に良い藩だった。悪政に対する一揆はない。
海坂・・・古語、古事記・万葉集の言葉 人間・・・海神 人間界と海底を結ぶ坂
古代日本人は人間界と異界が坂で結ばれていたと考えた。
折口信夫・・・水平線の先がどうなっているかと考えた時、坂になっている(前後)
藤沢周平・・・水平線が見える所に立っていると、水平線が弧を描いているように見える(左右)
この解釈が一番美しいかも。
250点の小説を44才〜67才の間に執筆する。多くない。
9編が海坂物(長編)
阿部達二は「藤沢周平残日録」の中で22編と書いているが海坂藩・五間川・染川町と入っていなければカウントしないので厳しい基準。
実際には50編、全部傑作とよんでいいようなよいもの。
海坂ものがなぜよいのか?生い育った故郷の空気が自然に体内に入っていたので書きやすい。
町人ものは舞台が江戸で、丹念に綿密に描く。調べて描くのと血肉に風土が流れているのが大きな違い。
「蝉しぐれ」の映画は黒土さんが夢見たものを勝手に描いている。
「三屋清左衛門残日録」も小説と違う。
小説は言葉の上のこと、各自が自由に思い描ける。
映画は気持ちにひっかかることが2つあった。
蝉時雨は重要な場面に2回ある。父の切腹の場面。罪人として死に引き取る。
荷車で坂道というのは町人の見ている場面でなければ意味がない。その屈辱、、周りの冷淡さにおふくが推す所に勇気が愛情に裏打ちされている。何も読んでいない。
この場面は物語の核心部であり、二人の信頼に裏打ちされる。
最後の炎天下海辺に馬を引く場面ではめくるめく夢のような時間の後、みんみん蝉の鳴く真夏でなければならない。映画はひぐらしが鳴いていた。

いろいろな人がいろいろな夢を見る。
文章に沿って作者の意図通り読む訓練をしてきた。
「蝉しぐれ」は人間の勇気が愛情を生む。ずーっと引き裂かれて、今生の別れに文四郎を呼ぶ。
文四郎にとっては強烈な体験。
「蝉しぐれ」は成長小説である。一人の少年が一人前になる。
継続的ドラマが起こるとは限らない。40年間語られる所に意味がある。
友人・ふく・その時々の体験の場面の美しさが中心にくる。
それによって成長が表される。
貧しい・おふくのへび・父の遺骸の引き取り・おふくの欅御殿での出産・救出・わな・横山家老
・五間川のシーンがすばらしい
シーンで結んでいる。結ぶのは文章力。ブロックが40年分。
司馬遼太郎は日本人とは何かに生涯をかけた。
文章という意味で芥川賞以外で書いたのは藤沢周平ただ一人。
本当にいい文章に出会える。
作家の仕事にはいろいろあり、日本語の美しい文章ということを考えたら、僕は藤沢周平さんしかいない。
谷崎かなあ?
藤沢周平は時代小説・エンターテイメントを越えて、規範を越えている。
好きな作品は「鱗雲(時雨のあとの収録)」「夜の城(冤罪)」「一顆の瓜(冤罪)」「雪明かり(雪明かり)」「竹光始末(竹光始末)」「たそがれ清兵衛」。
「三屋清左衛門残日録」は江戸詰側用人が引退し故郷で隠遁。引退した人を主人公にして書いた。
その男の条件を活かした。藤沢さんは食べることに淡泊だが、小説の中で食べ物の使い方がうまい。
小料理屋「湧井」の食べ物が有効に使われている(おいしそう)。
今鶴岡で食べている物で全部今でも食べられる。→江戸時代から不変。口細・はたはた・どんがら汁
カニ(メガニの味噌仕立)・エイの干物の煮物・・・庶民的
人間は食べなければ命を維持していけない。少年時代に食べた物が江戸時代から今まで一貫して繋がる庄内。
藤沢さんは恥ずかしがりや・・・それを誇りありがたいものとして受け止めている。
そこを舞台として美しいものを書いている。
隠居してからも藩内の争いに巻き込まれ解決の助力をする。
ドロドロした所も描く。権力抗争も正確に厳しく書く。
主人公は江戸の日本人よりちょっとだけ美しく描いている。
欲望・邪心があっても最終的に救われた気持ちになる。
現代に置き換えるととても美しく描かなければならない。
江戸時代という遠さ、今の日本人よりずうっとましだった。心の持ちよう。
年に1回集中的に読み直す。
担当ではないが月1回くらい編集長として藤沢さんと話す。
司馬さんは座談の名人、固唾を呑むほどうまい。池波さんは談論風発。
藤沢さんは無口、話がおもしろくない、話が平凡、必要で簡潔。話の接ぎ穂がない、次の仕事に結びつかない。
映画・ハードボイルドになるとセンテンスが少し長い。それで文章のみごとさ・・・対照的。
文章を作ることに没頭、他は小市民的、小心。
Q.「山桜」が好き。「花のあと」にも桜のシーンがあるが、鶴岡へはいつ頃行くとよいか?
A.桜の季節か初夏がいい。赤川・羽黒町の桜がよい。
ますが岡開墾場は明治維新に辛い目になった藩士たちが集まって家老を中心に開墾。大きな建物が残っていてよい
Q.タイトルはいつ考えるのか?
A.タイトルが先にできた方がうまくいく。
Q.「蝉しぐれ」は新聞連載のものを単行本になった時に最後の部分を大きく書き直した。書き直したことに賛否両論あるがどうか?
A.藤沢さんが単行本でなおされたならそれが作品。
新聞連載でつじつまの合わないことを訂正するのはどの作家もやっている。
テキストの特定は、宮沢賢治も何種類もある。
雑誌「Coyote」に僻村塾の特集があり池沢先生と湯川先生の「全ては囲炉裏端から始まった」という文章もあり。
次回は11月12日(土)辻原登さんの川端康成文学賞を受賞した「枯れ葉の中の青い炎」の創作秘話

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