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僻村塾記録 H19.4.30 15:00〜

              「本の世界」    東海大学教授 湯川豊氏

 本の世界から逃れられない。
 毎日新聞の「今週の本棚」の書評委員をしていて、月1回書評を書く。
 能役者、安田登著「ワキから見る能世界」、梨木香歩著の昔話的小説「水辺にて」が
異界を描いていて、異界を考えることが多かった。
 旅人の前に現れる異界、水の向こう側にある異界
 現実と非現実をひっくるめた異界
 安田登さんは朝日カルチャーセンターで能の体の動かし方講座をされている。
 シテが中心。脇とは?脇役ですらない。
 夢幻能・・・シテ=旅人 出てきてイントロダクション 脇は下がり、シテ役に背を向け座り続ける。
 シテ・・・幽霊・おばけ 心残りを華麗なる踊りで現す(恨み・心残りをこの世に残して死んだ。)
 謡曲集(日本古典文学大系)・古今集・新古今・源氏の詞章をもとにして、言葉が成り立っている。
 重奏性があり、読んでいて面白い。
 シテを呼び出す脇はどういう存在で、どういう条件があるか?
 脇=旅人・僧侶・漂白の旅人 無一物 生きて旅してこの世を回るしかない人
 脇の条件・・・芭蕉は大旅行家、旅人、無一物であることを一生懸命考えた人
 あることを一生懸命考えた人
 「逝去の弁」・・・深川の芭蕉庵 定住を嫌い、風情を突き詰めると、こもかぶりになる
 大阪で客死する・・・能の脇役のような生き方
 彼が呼び出した物は詩・俳句。非現実的で言葉を使ってこの世のもの以外のものを呼び出す。

と考えながら本を読んだ。
「異界」・・・村上春樹の全部の作品のテーマ(「ノルウェーの森」「風の歌を聞け」以外)
 共同通信論説委員との対談のため村上春樹を読む。村上春樹の中に出てくる異界。
 本人はどう考えているのか?
 文芸の編集者として、村上春樹が好きというと鼻の先で笑われる。
 村上春樹のようにみごとな文章を書ける人はいない。
 「国境の南太陽の西」は、「ねじまき鳥クロニクル」の最初の部分を抜き出した。
 妻の父の援助でバーやレストランを経営し成功している僕。
 島本さんの転校で全く会わなくなる。
 37才で島本さんに再開する。島本さんはおばけ・幽霊ではないかと気付く。
 雨の庭、川に娘の骨を流す。ほとんど死が目の中にある。
 結ばれた日にいなくなる。全てを取るかそうでないか?
 日常に戻る決意をしたところで終わる。御霊と本当に結ばれる。
 こういう書き方をする作家はいない。

 2002年秋「海辺のカフカ」を出版した時に、共同通信の小山さんと村上春樹に
インタビューした。
 人間というのはたとえれば二階の家、一階は家族団らん、二階は個人の部屋。
 地下一階は記憶(生活の思い出)、忘れてしまった記念物。
 たいていの心理小説は地下一階まで描いている。
 地下二階には底のない闇があり、人間とは何かというドラマが少しずつ起こっている
が、普通の人間には見ることができない。
 長くとどまっていると、普通の人間は帰れなくなる。
 生命の成り立ち・条件としてのドラマ
 地下二階に降りて行って、そこでおこっているドラマを闇の中で見て、自分のものと
して自分の言葉にして一階まで浮上してくるのが小説家の役割。

 ドストエフスキーはリアリズムで地下二階に到達している、非日常的な異界でも書ける。
 「海辺のカフカ」・・・非日常が頻繁にある。
 カフカは15才で家出、四国高松に行く。
 図書館に住み着く。15才の館長の幽霊に出会う。
 ジョニー・ウォーカー・・・化けた姿で出てくる。カーネル・サンダース・・・高松に出てくる。
 SF・童話の世界にも見えるが、自然に出てくる。
 佐伯さんの自殺、軍服を着た二人が導く。
 現実の世界と組み合わせて異界が見えてくる。
 二カ所「雨月物語」の引用がある。
 日本人は江戸時代から異界と親しい。「雨月物語」の中の「白峰」
 「貧乏論」・・・お金の化身 仮の姿(神でも仏でもない)・・・人
 お金の精→カーネル・サンダースに同じ言葉を言わせる
 モダン、アメリカ文学の影響を受けているモダニズム、実は日本的。
 何で外国のことを書かないのか?
 日本語で書くということは、日本人を考える。
 上田秋成など伝統的なものをきちんと読んでいる。
 モダン・現代的な風俗を描くが、根の深い所に異界を持っていて、自在に小説を書く人。
 読み直すと新しい発見がある。
 闇・異界・・・霊魂・魂(人間の存在を支えている)

 「アフター・ダーク」
 大学4年生の美人モデル、ノイローゼで精神が損なわれる。浅井エリ・マリの姉妹の物語
 一ヶ月家で寝続けている姉、大学1年生の妹、渋谷とおぼしきレストランで読書。
 追いつめられた孤独、声をかけてくる男。
 姉の同級生のために寝ていることを知っていて、見たくない妹
 人間の孤独を描いている(=向かい側の世界)
 レンズと化して孤独の視覚化がすごい。
 文章の力が卓絶して強い。荒唐無稽な異界と現実の接点を描く
 深い所でストーリーとは別に含めて、共鳴・共感・慰めがある
 共感が大切=物語の力。

 霊魂(アニミズムの世界)が中心にある=星野道夫を思い出さざるをえない
 星野が最終的に描こうとしたのは、極北のインディアン・エスキモーが持つ神話の世界。
 ポトラッチのムースのスープを回し飲み
 僕がムースを飲むと僕はムースになる(=アニムズム)
 人間が命を維持して生きていくのは、動物を殺して血のにおいのする他の動物・植物を食べる
 条件・約束は哀しみを自覚して生きていくために神話・物語を必要とする。
 そういう物語(神話)を失っている。
 村上春樹という作家の中に、21世紀の世界に読み取ることができるのではないかと最近考える。

 水木しげる・・・戦争・南洋におけるおばけ・アニミズム、
 杉浦日向子・・・江戸時代の百鬼夜行
 埴谷雄高・・・NHKの連続テレビ、向こうに行っている人
 村上春樹・・・若い頃からドストエフスキーに親近感を持つ。
 「1973年のピンボール」にドストエフスキーが出てくる。
 「グランブルー」・・・浅田次郎 大人の慰め
 異界・・・つながりへの糸口 アニミズムの異界・・・物語 聞き取ることができる 幅が広い
 同じ領域で違う出方をしている アニミズム・・・神というより混合
 読まれる・・・アニミズムの世界と通じるから
 アイルランドブーム(ケルト)・・・一神教ではない、通じる物がある。
 ゲーム感覚・スピード感
 リアリズム 現実を模倣するのが小説と誤解されてきた。
 「雨月物語」は江戸時代の大人が読んでいた。
 近代小説に毒されている。もっと自由になってもよいのでは?
 神話・説話全てに異界がある。
 宮沢賢治は「なめとこ山の熊」で約束という哀しみを描いた。

 次回5/27(日)真野さん
   6/16(土)高橋先生
 
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