「きつねのはなし」 森見登美彦著

 高橋克彦さんの直木賞受賞作の「緋い記憶」は、過去の記憶にまつわるちょっとありそうで恐い話を集めた短編集だった。また、梨木香歩さんの「家守奇譚」は、明治時代を舞台に亡くなった親友の家の留守番を頼まれた私が、掛軸の中の舟から亡くなった親友が現れたり、サルスベリの木に懸想されたりする不思議な短編集だった。こわいものみたさのような好奇心なのか、現実から少し離れた冒険心からなのか、自分でもよくわからないが、読んでみたいと思わせる本だった。

 最近読んだ森見登美彦さんの「きつねのはなし」も、古都を舞台にした、怪しくちょっとこわいような短編が四作収められている本だった。「きつねのはなし」「果実の中の龍」「魔」「水神」の四編で、それそれは別々の主人公だが、共通した店、動物、においなどで不思議なイメージを思わせるような構成になっている。

 タイトルにもなっている「きつねのはなし」は、大学生の私が、芳蓮堂という古道具屋でアルバイトを始め、女主人のナツメさんの言いつけでお客の天城さんという怪しい人物の家へ品物を持参するうちに、彼の暗い情念のような世界に引き込まれ、恋人の奈緒子とも連絡が付かなくなっていく。

 吉田山の節分会の夜、ナツメさんが幼い頃に出会ったキツネの面を着けた男の話と、現実の節分会の夜に私が奈緒子を見つけ出す夜の話がいれこのようになって語られる。ミステリーではないので、謎解きがあってすっきりと解決する訳ではないので、読んだあとに疑問が残る。天城さんといったい何者なのか、ナツメさんとはお客と古道具屋という以外にどんな関係があるのか、天城さんのなくなり方は?など謎のままである。しかし、次はどうなっていくのかと最後まで読まされたしまった。謎であることが色々な想像をかき立て、楽しめるということが、また文学というものなのだろうとも思う。

 本屋さんの棚で、予備知識も全くなく、何気なく手に取った本だが、アタリだった。

 


 

HOME