3冊目「森と氷河と鯨ーワタリガラスの伝説を求めてー」

 

この本は,シトカの街でのボブ・サムとの出会いからワタリガラスが一つのキーワードになっている。
 ボブの印象を
「自分と同い年のこの男の中に,何千年という時間を自由に行き来できるスピリチュアルな力を感じるのである。ワタリガラスの神話を求めるこの旅が始まった時,それも最初の日に,なぜぼくはボブに出会えたのだろう。」
と書いている。
 ボブと一緒に出かけたクイーンシャーロット島では,ヨーロッパ人が持ち込んだ天然痘で7割の村人が亡くなり,残りの人々は村を捨て,他の場所に移動した,その跡のトーテムポールが朽ち果てようとしていた。
 トーテムポールが朽ち果て,その跡に森が押し寄せ全てが無に帰っていくことを望んでいる人々,目に見えない物に価値を置く社会に惹かれていく。

 リペイトリエイション(帰還)は,1800年から1900年にかけて,世界中の遺跡や墓地が発掘され,埋葬品や副葬品がお墓から博物館に持ち去られた。それらの民族から,遺骨や遺品を元の場所に埋め戻してほしいという返還要求が起きており,アラスカ先住民も要求しており,世界中の博物館を震撼させているという。トニイ・ヒラーマンの小説の「話す神」の中にもスミソニアン博物館に対して,遺骨の返還を要求するアメリカインディアンの部族の話が書かれていた。
 アラスカで開催された,リベイトリエイションの会議にボブと星野さんは出席する。物に中心を置く社会と心に中心を置く社会の衝突。
 その会議の最後にボブが語った言葉に対して,
「ボブはこの会場の誰をも批判していなかった。その許しが人々をとらえていた。ただ,祖先のたましいを土の中に戻してほしいこと。そのことで二つの文化がもっと近づけるかもしれないことを,静かに訴えていた。僕は目頭が熱くなっていた。ボブは相手を許しているだけでなく共に生きていこうと語りかけていたのである。」と書かれている。

 この本の取材と,テレビの取材の途中で星野さんは結局亡くなられたのだが,ボブとの旅は,星野さんの最後の旅にふさわしかった。最後の旅だったからボブに出会えたとも言えるかもしれない。

H12.3.3


 「森と氷河と鯨」を再読した。8月8日で星野さんが亡くなられて5年が経過した。
 再読してこの本は、ボブ・サムのことを書いた本だということに改めて気が付いた。
 ボブとのシトカの街での出会いから、墓地へワタリガラスの巣を見に行って、その2ヶ月後には一緒にクイーンシャーロット島にトーテムポールを見に行く。ボブを通してスピリチュアルな霊的な世界に惹かれていく星野さんの心の動きが、文章の中から見えてくる。

 

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