椎名さんのこと

                   
 椎名誠さんの作品を一番始めに読んだのはいったいいつ頃だったのだろう?友人に勧められて,「わしらは怪しい探検隊」を読んだのが最初だった 。
 古い読書ノートを引っ張り出してみると,平成元年六月に読んだ記録がある。もう四半世紀近くも前になるのがとても不思議な気がする。椎名さんも年を取るはずだ。昔はカツ丼をワシワシ食べるイメージだったが、今は還暦も過ぎ、そういう日々とは遠い。

 週間ポストに連載されていた「赤マント」シリーズのエッセイは,痛快で面白かったがその中でも読んでいる本の多さに圧倒された記憶がある。

 「哀愁の町に霧が降るのだ」・「銀座のカラス」・「新宿烏森口青春 編」の,青春三部作と呼ばれる自伝的な小説の中には ,活気に満ちた時代の椎名さんの青春が映し出されていて 面白く読んだ。息子さんとのことを書いた「岳物語」が、教科書に掲載されたことを思うと隔世の感がある。
 
 シベリアへ大黒屋光太夫を追って行く「シベリア追跡」とその写真を納めた「零下59度の旅 」は今も記憶に新しい 。犬ゾリを使って厳寒のロシアを行く日々が印象的に書かれている。
 
 井上靖さんの「おろしゃ国酔夢譚」や,その原典となる桂川甫周が大黒屋光太夫に聞き書きした「北槎聞略」からの引用を交えた、シベリアへの紀行文である。大黒屋光太夫は,江戸時代の紀州の船頭で ,紀州から出港して江戸に向かう途中、暴風のためアリョーシャン列島のアムチトカまで流される。後には,ロシアのペテルブルグのエカテリーナ二世に謁見し,帰国を願い出て許され,ラックスマンに船で根室まで送られるという数奇な運命の人だ。

 「おろしゃ国酔夢譚」は1968年に「文芸春秋」に連載された井上靖さんの小説で,椎名さんの「シベリア夢幻 零下59度のツンドラを行く」は1985年12月に(文庫化された1991年に「零下59度の旅」と改題),「シベリア追跡」は1987年に出版された。「おろしゃ国酔夢譚」は1992年に緒方拳主演で映画化されている。
 
 「砂の海 楼蘭・タクラマカン砂漠探検記」は朝日新聞社主催の日中共同楼蘭探検隊のメンバーに選ばれた椎名さんの,砂漠を行く日々や楼蘭での探検記である。そこは小学校時代に読んだスウェン・ヘディンの「さまよえる湖」や,井上靖さんの「楼蘭」を読んで,椎名さんが長い間行きたかった場所だ。

 椎名さんの魅力の一端は,こういう本にある。本を読んでその場所に自分で行ってみて,自分の目で見てその場所や空気を皮膚感覚で捉え,その時に感じたことを椎名さんの言葉に書き換えて私たちに伝えてくれる。

 今年(平成24年)は,市立図書館で開催された椎名さんの講演会や,インターネット文学館の展示,そして椎名さん監督作品の映画会も開催され,椎名さんの本をずっと読んできたものにとってはとてもありがたい機会だった。図書館では椎名さんの全著作が展示されており,ストアーズ社時代に書かれた貴重な本から最新の本まで膨大な冊数の本が並んでいたのは圧巻だった。

 

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